食いしばりと首こり。首をほぐしても戻る人が見直したい日中のクセ・鍼灸でできること
「パソコンをしているとき、歯はどうなっていますか?」——首こりのご相談で、こうお聞きすることがあります。たいていの方は「考えたこともなかった」と言われます。そのまま少し作業をしていただくと、上下の歯がぴったり合わさったままの方が、けっこういらっしゃいます。ご本人には力を入れている自覚がありません。首をほぐしても数日で戻ってしまう方の中に、この状態の方がまざっています。
顎と首は、思っているより近い場所にあります
顎関節症の方には、首の痛みを訴える方が多いことが報告されています。逆に、首の痛みがある人は顎関節症を併せ持つ割合が高い、というまとめもあります。
ただし、これは「顎が原因で首がこる」という意味ではありません。首が先か顎が先かは、はっきり決まっていません。両方が同時に起きやすい、というところまでが今わかっていることです。研究の多くはある時点の状態を比べたもので、どちらが原因かまでは判断できません。
ですから、首こりの方全員に顎の話が当てはまるわけではありません。ただ、首こりが取れにくい方の中には、顎の状態も一緒に確認したほうがよい方がいます。
本来、歯は当たっていません
食事や飲み込みなどを除けば、安静時は上下の歯がわずかに離れているのが一般的です。唇が閉じていても、歯まで合わせ続ける必要はありません。
ところが、集中しているときや緊張しているときに、歯を軽く合わせたままにするクセがつくことがあります。強く噛みしめていなくても、当てているだけで、噛む筋肉は働き続けます。
顎を閉じる筋肉は、こめかみと、えらのあたりにあります。顎を動かす筋肉と、頭や首を支える筋肉は、それぞれ役割が違います。ただし、噛む動きと頭・首の動きは、まったく無関係ではありません。
また、顔や顎からの痛みの情報と、首からの痛みの情報は、神経系の中で関連して処理される可能性があります。そのため、顎と首の症状を同時に感じる方がいると考えられています。これは、関係する仕組みの一つとして研究されています。
東洋医学の視点——気の流れが上に偏った状態
顎からこめかみにかけては、体の側面を通る流れが集まる場所と捉えます。ここが滞ると、頭の横の重さや、首すじの張りとして感じられることがあります。
食いしばりは、東洋医学では気の流れが上に偏った状態と捉えることがあります。考えごとが多い、気を張る時間が長い、といった方に出やすい型です。
ただし、これも型はひとつではありません。疲れきって支える力が落ちている方もいれば、冷えて縮こまっている方もいます。同じ食いしばりでも、必要な手当ては変わります。
睡眠とストレスから見ると
歯ぎしりや食いしばりは、ストレスや不安と関連することが多いとされています。原因がはっきりしない場合もあります。
眠っている間の歯ぎしりは、ご自分では気づけません。同居の方に指摘された、朝起きたときに顎がだるい、といったことで初めてわかる方が多いです。眠りが浅い時期に強くなる方もいます。首こりだけを追いかけて変わらないときは、その時期の眠りや気持ちの負担も一緒に見てみてください。
顎に負担のかかりやすいクセ
スマホやパソコンを使っているときは、頭の位置だけでなく、歯を合わせたままになっていないかも確認してみてください。姿勢そのものを悪者にするのではなく、同じ姿勢と噛みしめが長く続いていないかを見ることが大切です。
- 頬杖をつく
- うつ伏せで寝る
- 電話を肩と耳ではさむ
- いつも同じ側だけで噛む
どれも、その場では気になりません。時間の長さで効いてくるタイプの負担です。
日中にできる3つのこと
まずは気づくことからです。強く動かす必要はありません。
-
1シールで気づく
作業中に目に入る場所に、丸いシールを一枚貼ります。目に入ったら、歯が当たっていないか確かめて、当たっていたら唇は閉じたまま歯だけ離します。気づくための仕掛けなので、回数を決めて頑張るものではありません。一日に何度か思い出せれば十分です。
-
2息を吐いて顎の力を抜く
肩を落としながら息を吐き、顎の力をゆるめます。5回ほど。仕事の合間や、信号待ちのあいだでもできます。
-
3こめかみとえらをやさしくさする
こめかみとえらのあたりに指を当てて、円を描くようにやさしくさすります。左右30秒ずつ。強く押しこむ必要はありません。湯船で、顎から首すじにかけてを温めるのもおすすめです。
※顎や顔に腫れ、赤み、熱っぽさがある場合は、温めたり揉んだりせず、医療機関へご相談ください。
やらないほうがいいこと
顎まわりは、良かれと思ってやったことが裏目に出やすい場所です。
- 痛みを我慢して、大きく口を開けるストレッチをくり返す
- 顎が痛むときに、硬いものを噛んで鍛える
- 痛む場所を強く押し続ける
- 首こり対策として、噛み合わせを削る処置を急ぐ
とくに最後は注意が必要です。顎関節症では、まず、生活の中のクセを見直すなど、元に戻せる方法から始めます。歯の摩耗などがある場合は、歯科でマウスピースが必要かを判断してもらいます。歯を削るような元に戻せない処置は、慎重に検討されます。
首こりを理由に、いきなり噛み合わせを触る必要はありません。
すぐに医療機関へご相談いただきたい症状
- 口が急に開かなくなった、顎が外れて戻らない
- 転倒や打撲のあとから痛む、顔の形が変わった
- 顎や顔が赤く腫れて熱をもつ、発熱をともなう
- 顔や口のしびれ、感覚の低下がある
- 急に噛み合わせが変わった感じがする
- 胸痛、息苦しさ、冷や汗をともなうあごの痛みがある
最後の項目は、心臓の症状としてあごに痛みが出ることがあるためです。顎の問題と思わずに、すぐ受診してください。
早めに歯科・歯科口腔外科へご相談いただきたい症状
- 食事のたびに顎が痛む
- 口を開けるたびに音がして、痛みもともなう
- 朝起きたときに顎がだるい日が続く
- 痛みが悪化している
顎の音については、あまり心配しすぎないでください。音だけで痛みや開けにくさがない場合は、治療を必要としないことも少なくありません。
※このコラムは一般的な養生(日々の暮らしの工夫)のお話です。効果の感じ方には個人差があり、すべての方に同じ結果をお約束するものではありません。
首こりと顎の緊張に、鍼灸でできること
当院では、初診に約90分かけて丁寧にお話をうかがいます。首だけを診ることはしません。顎の動き、噛みしめのクセ、頭の位置、胸郭や背骨の動き、睡眠や生活の負担まで含めて、どこから手をつけるのが早いかを一緒に考えます。
症状を確認したうえで、顎まわりの緊張に対して鍼灸を行う場合もあります。ただし、鍼灸は歯や噛み合わせの診察に代わるものではありません。歯や噛み合わせそのものは歯科の領域です。そちらが必要だと判断したときは、はっきりお伝えします。
首こりの原因が、首の外にあることは珍しくありません。心当たりのある方は、まず日中の歯の位置を確かめるところから始めてみてください。
まとめ
- 食事や飲み込みなどを除けば、安静時は上下の歯がわずかに離れているのが一般的
- 強く噛みしめていなくても、当てているだけで噛む筋肉は働き続ける
- 顎関節症と首の痛みは同時に起きやすいが、どちらが原因かまでは決まっていない
- まずは日中の歯の位置に気づくところから。シール一枚で十分
- 大きく口を開けるストレッチや、硬いものを噛んで鍛えるのは逆効果になることがある
- 首こりを理由に、噛み合わせを削る処置を急がない
- しびれ・強い腫れ・胸の症状をともなう痛みは、すぐに医療機関へ